モニカ・サルマーゾ(Mônica Salmaso)はブラジルのシンガーで、ブラジル本国でどんな存在なのかはわからないけれど、日本のブラジル音楽ファンの間では、もう10年以上前(もっと前?)から注目されてきた人です。
Biscoito Finoという独立系レーベルからの作品が多くて、このレーベルの成り立ちなんかも、女性経営者のお話などおそらくとても興味深いことが満載だと思います。
今回は渡辺貞夫さん feat. モニカ・サルマーゾという形。ライブを知ったのは渡辺貞夫さんが昨年、ラジオのブラジル音楽の特集番組で、モニカ・サルマーゾの名前を出されたときです。
「でも最近はブラジルで良いミュージシャン探すの大変ですよ」という正直な前置きのあと、「でもいい人がいるんです、モニカ・サルマーゾという人が。」と語られて、来年日本に呼べたらと思っています、というお話でした(引用は大意)。そして実現したのが今回のライブです。
自分でもCDは以前からよく聞いていて、アレンジの緻密さ、録音の上手さが際立ち、参加ミュージシャンには日本でもブラジル音楽ファンにはよく名のしれた素晴らしいプレイヤーばかり。正直、「なぜ日本に紹介されないのだろう。」と思っていました。
歌はといえば、抜群の上手さとしっとりした声の深みが印象的で、ただ、日本人に分かりやすいキャッチフレーズ・・・ボサノバの創造主、のような・・・がつけにくい存在ではありました。日本人が描く「ボサノバ」「ラテン系」にはあてはまりません。
ライブはとにかく素晴らしい内容でした。渡辺貞夫さん主体のインスト曲と、モニカ・サルマーゾ主体の歌の曲がちょうど半々くらいだったかと思います。貞夫さんが作った歌をモニカが歌う場面も。
さらにはボサノバファンに向けたスタンダード曲あり、モニカ・サルマーゾファンへのコアな曲あり、そこにエリオ・アルヴェスのピアノとシヂエル・ヴィエイラのベース、エドゥ・ヒベイロのドラムがイマジネーションとドライブ感をもたらします。ドラムのアプローチの多彩さには驚きました。ついつい目がドラムに行って、「左手にマレット、右手はブラシの反対側でシンバルをソフトに叩きつつ、カシシも握って別のリズムを出している」などと心にメモします。
そんなある意味分かりやすい「すごい演奏」をする人たちの中、パウロ・アラガォンのギターは要所要所で柔らかな詩情と人間らしいあったかさをもたらしていました。これは、派手さはないけれど、モニカ・サルマーゾの歌唱にはとても大切な存在だったのではないでしょうか。
「派手さはないけれど」。
けれど、じゃあその先に何があるのか。それがモニカ・サルマーゾの本質かと思います。
おおげさなセット、大きい音、斬新な楽曲、壮大な演出、一風凝ったアレンジ。膨大な情報があふれる今、そういう派手な手法は、音楽的に大事な要素でもある一方、ミュージシャンが注目を集めるための道具として使われることもあります。「目立つ何かがないとお客さんに振り向いてもらえない」感は、日増しに大きくなるばかりです。日々流される広告とも手法は共通しています。
モニカ・サルマーゾの歌は、その派手さはないけれど、の先にあるものがとても豊かでした。それは言葉にしづらいもので、見て、聞いて、感じるものです。彼女にかぎらず、素晴らしい歌手に共通するものだと思いますが、おおげさなものに耳目が集まりやすい昨今、そんな歌唱はメジャーシーンでは今や絶滅危惧種となってしまった感はあります。でも大事にしたいのは、「すごい」演奏やアレンジや美声、ではないところにある「何か」です。
ライブは日本語の歌を最後に歌うというサプライズもあり、2ステージで25曲ほどはあったか、全く飽きることなく楽しませてもらいました。80歳を超えた渡辺貞夫さんもほぼ全曲参加、立ちっぱなしだったと思います。モニカ・サルマーゾの歌とも共通する「派手さはないけれど、の先」の豊かさを、そのプレイからひしひしと感じました。
(終演後の楽屋にて。左から、ときわさん、モニカ、尚子さん。写真ありがとうございます、尚子さん、友田さん。)
渡辺貞夫さんの新作はモニカ・サルマーゾに捧げた「Mônica」という曲を含み、2017年10月25日だからもうすぐリリースだそうです。参加メンバーもすごいです。
http://www.hmv.co.jp/fl/5/973/1/
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